1. 執筆者紹介
弁理士 岡崎真洋(岡崎弁理士事務所)
2016年、経理・会計のアウトソーシング事業で、個人事業主を開業。2019年、人材系ベンチャー企業に出向、管理部門立ち上げ業務に従事。以降、中小企業の経理部門の立ち上げコンサルの他、事務代行、ロゴ・HPなどのデザイン業務まで幅広く対応し、“経営アドバイスから作業代行までのワンストップサポート”で中小企業・ベンチャーを総合的に支援。また、2020年、デザイン会社を設立。その後、2022年より弁理士として事務所を立ち上げる。
商標・著作権を専門にしており、デザイン・ソフトウェア・エンタメ分野を得意とする。上述の経理やデザインの経験も合わせ、中小企業1社1社に合った知的財産権の提案・相談業務を中心に、弁理士として活動。
保有資格は弁理士の他、修習技術者(情報工学)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士など。
2. AFURI商標問題のこれまでの流れ
SNS等でも話題になり、ご存じの方も多いと思いますが、
この騒動は、ローマ字「AFURI」の商標権を持っているラーメンチェーン店AFURI株式会社(以下、AFURI社)が、漢字「雨降」にローマ字「AFURI」を添えた商標を使用していた吉川醸造株式会社(以下、吉川醸造)を提訴したというものです。
提訴された吉川醸造は、2022年8月22日に「AFURI株式会社からの提訴について」というプレスリリースを出し、この内容が感情を揺さぶる文章であったことで、SNSなどを中心にAFURI社の権利行使に疑問の声が挙がり、炎上状態となりました。
主な内容を要約すると、
ラーメンチェーン店であるAFURI社は、本業のラーメン以外にも多数の商標権を持っている会社である。そのAFRI社が、ラーメンチェーンと関係の薄い「日本酒」の分野で、地域・歴史・文化に根差した名称「あふり」の使用について、日本酒が本業の吉川醸造に対して商品を全て廃棄処分することまで求めてきている。この強硬な対応に、地元の施設・企業も不安を抱いている。
参考:https://kikkawa-jozo.com/blogs/news/sosho1
といったものでした。これを見た世論が、なんか感じの悪いことをする会社だね、ということで、炎上状態となったという流れです。
次に、対するAFURI社は、まず公式のプレスリリース前の2022年8月24日に、代表である中村氏がFacebookで反論をします。
主に権利行使の正当性を主張する内容でしたが、
文中にある「どうなんでしょう?私、間違ってるでしょうか?」などの強い言葉や、「我々が取得した「AFURI」というお酒の商標を完全に侵害している」などの断定的な表現などの印象も相まって、どちらかというと火に油を注ぐ結果となったようです。
参考:https://www.facebook.com/hiroto.nakamura.58/posts/6701624183217158/
その後、AFURI社は、2022年8月26日に、公式のプレスリリースを公開します。
AFURI社が「日本酒」に使用している証拠と、吉川醸造が権利を持っている「雨降」を超えて「AFURI」も使用している証拠を写真付きで公開し、最初の吉川醸造のプレスリリースより受ける印象も変わりました。
参考:https://afuri.com/wp/press/680
この件は、商標法上の問題もさることながら、印象管理やレピュテーションリスクの問題も多く、勉強になる点が多かったように思います。
しかし印象管理やレピュテーションリスクについては私の出る幕ではないので、今回は「商標権的にはどうだったのか」について、どこを見ていけばよいのかをまとめてみます。
3. 実際のところ(商標権的には)どうなの?
(1)吉川醸造は、AFURI社の「AFURI」の商標権を侵害しているのか?
商標権侵害となる要件をざっと説明すると、
① 使っている商品やサービスが似ているか
② 商標そのものが似ているか
この2つが揃って、商品やサービスの出所を誤認や混同する(製造・販売元を勘違いするなど)状態になったときに、商標権侵害となります。
ここで今の状況をまとめますと、
・AFURI社は、「清酒」を指定商品に含む「AFURI」(登録6245408)の商標権を持っている
・吉川醸造は、「日本酒」に漢字「雨降」にローマ字「AFURI」を使用している。更にAFURI社のプレスリリースによると(https://afuri.com/wp/press/680)、ローマ字「AFURI」を大きく表示する商標も使用している可能性がある
です。商品として「清酒」と「日本酒」は似ているので(①)、商標そのものが似ているか(②)が、商標権侵害になるかで重要になります。
見るべきポイントは、
・「AFURI」と、「日本酒」に漢字「雨降」にローマ字「AFURI」は類似するのか
→類似するなら、商標権侵害の可能性が高い(商標権が無効・取消にならない限り)
・ローマ字「AFURI」を大きく表示する商標を吉川醸造が使っていたことは事実なのか
→使っているなら同一表記のため、商標権侵害の可能性が高い(商標権が無効・取消にならない限り)
です。
今回はポイント解説なので、参考になる審査事例、審査基準、判例の紹介や、当職の見解は割愛しますが(具体的な考察は、弊所[岡崎弁理士事務所]のNoteをご覧ください)、
類似すると認定されるかが、ここでのミソです。
先使用権が認められる場合などの例外を除き、原則、商標権侵害を構成することになります。
(2)AFURI社の「AFURI」は登録されるべきものだったのか?
しかしそもそも、AFURI社の商標登録そのものが無効であれば、権利もなければ商標権侵害もありません。
吉川醸造はプレスリリース(https://kikkawa-jozo.com/blogs/news/sosho1)で「あふり」は地名である旨の主張をしていますが、産地を普通に用いられる方法で表示する標章は登録できないものであり、無効の理由となります。
そこで、吉川醸造は、「AFURI」(登録6245408)について無効審判を請求しているようです(2023-890066)。請求が認められれば、商標権は無効となり、はじめから存在しなかったものとみなされます。
見るべきポイントは、
・ローマ字「AFURI」は、大山(通称 阿夫利山)の産地を「普通に用いられる方法で表示する」ものなのか
→「普通に用いられる方法で表示する」ものなら、無効であり、権利は消滅
です。特に今回はローマ字表記ですが、ここがポイントでしょう。
ちなみに、サッポロビールや丸亀製麺など、世の中には地名を使った商標は多数あります。地名と商標の関係は、掘り下げていくと色々見えてくることもあるかもしれません。
(3)AFURI社や吉川醸造は、商標権を登録したとおりに使っているのか?
次に、商標は使用されて初めて信用が蓄積し、価値がありますので、それに関連していくつか知っておきたい制度の仕組みを説明します。
① まず、商標は先願主義といって、その商標を先に「使用」した人ではなく、 先に「出願」した人が商標の権利者として認められるルールとなっています。
先に「使用」した人とすると、誰が最初に使用をしたのかについて調査や判断が困難で、ビジネスをする人にとって、いつ誰に「実は私が先に使ってました」と訴えられるか分からない不安をずっと抱えなければなりません。そういったこともあり、世界で主流となっている考え方です。
とはいえ、「使用」する全く気がない人に権利を認めることは道理に合いません。
そこで、
・日本国内で継続して3年以上その商標を使っていない
場合は、誰でも、不使用取消審判という、商標を取消する請求ができます。
② また、商標は属地主義といって、基本的に権利を取得した国内でのみ権利が保護されます。
見るべきポイントは
・AFRI社は、ローマ字「AFURI」を「清酒」に使っていたのか(①)
・それは「日本国内で使っていた」のか(②)
→使っていないなら、審判請求登録日の時点に遡って取消
です。もし、AFRI社が日本国内では、ローマ字AFURIを清酒に使っていないのであれば、不使用取消審判の請求により、審判請求登録日の時点に遡って取消となります。ただ、吉川醸造は現時点では、不使用取消審判の請求はしていないようです。
ちなみに、吉川醸造は「雨降」(登録6409633)の商標権を持っているのですが、登録はデザイン化された漢字「雨降」に対してされているもので、ローマ字「AFURI」を付けて使かうことは必ずしも保護の範囲に入らないことも付け加えておきます。もし吉川醸造が、漢字「雨降」にローマ字「AFURI」を付ける商標権を持っていたら、この態様での使用は保護されていたことを思うと(それが登録できるものかどうかは別段として)、使う予定の商標の態様のまま商標登録できていれば、形勢はまるで違ったものになったと思います。
(4)商標権侵害が認められると、商標権者は何ができるか?
前述の3点を考慮して、商標権侵害であった場合、商標権者は何ができるでしょうか。
今回は、「商品を全て廃棄処分」という、かなり強い要求に見えますが、これは認められるものでしょうか。
商標権者ができる措置には、主に以下のようなものがあります。
① 商標を使うのを止めてもらう「差止請求」
② 商標を使ったものを廃棄してもらう「廃棄除去請求」
③ 今までその商標を使ったことで得た金額を払ってもらう「損害賠償」
④ 新聞などで謝罪広告を出してもらうなどの「信用回復措置請求」
⑤ その他、刑事責任の訴追など
この中で、「廃棄除去請求」(②)は、「差止請求」(①)とセットで請求することが必要で、
更に侵害の予防に必要な範囲内でのみ認められます。
つまり、使うのを止めてもらうために必要な範囲内でなくてはなりませんので、
廃棄を求められるものは、「AFURI」と表示しているものに限ります。
また、商品を廃棄するほか、ラベルを剥がすなどでも構いません。
この廃棄除去請求は、今後使うのを止めてもらうために行うものです。
(5)商標法って何のためにあるのか?
法律は、文言がすべてではなく、その背景にある、社会の合意やなぜそういうルールになっているのかを考えることが大事になることも多々あります。法律は手段であって、目的ではありません。
例えばスポーツなら、
ルールを守るためにルールがあるのではなく、フェアプレーの精神があって、これを実現するためにルールがある、こんなイメージです。
なぜ商標に関する権利を、国が認めているのかというと、
商標と紐づいた「業務上の信用」を守るためです。今まで積み重ねてきた信用を代表する商標を、簡単に真似されて信用まで横取りされるようなことがあっては、誰も真面目に信用を積み上げようとはしません。つまるところ商標権は、言葉ではなく、その奥にある信用を守るという事に他なりません。
商標法の第1条では、目的として、
「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」
と明記されています。
これからAFURI商標問題は、侵害訴訟、無効審判などで法律上白黒がついていきます。
しかし、炎上状態に至ったのは、印象管理やレピュテーションリスクの観点もさることながら、商標の専門家としては、世の中に、AFURI社の権利行使が「信用の維持」のためではなく、「言葉の独占」のためと映ってしまったことにも一因があると感じます。
その点、吉川醸造のプレスリリース、AFURI社代表のFB投稿、AFURI社のプレスリリースで、印象も変わっていきましたし、当事者が実際にどのような意図で行動しているかは、裁判の中でも開示される部分があるかもしれません。
そういった点に注目しながら、引き続き本件を見守っていければと思います。
4. 最後に
以上、商標・著作権弁理士の岡崎による「AFURI商標問題」のポイント解説でした。
今後、「AFURI商標問題」について裁判や審判の動きがありましたら、また記事をアップしたいと思っています。
また、今回の「AFURI商標問題」の具体的な類否判断や過去の事例などの紹介など、より深い考察記事は、弊所[岡崎弁理士事務所]のNoteで更新する予定ですので、詳しく判断の手法などを知りたい方は、ぜひご覧ください。
https://note.com/ok_ip/
また、具体的に、商標・著作権について何かお悩みがありましたら、お気軽に下記アドレスまでご相談ください(ご相談内容を伺った上、個別具体的な調査・鑑定・分析等が必要になる場合などでは相談料が掛かる場合もございますが、事前にご案内させて頂きますのでご安心くださいませ)。
hello@ok-ip.jp
それでは以上となります。本記事をお読みいただき有難うございました。