デザインは、商品の魅力を伝え、他の製品と差別化するために重要な役割を果たします。その独自性を守るために活用できるのが意匠権です。しかし、意匠権を取得するには一定の審査期間が必要であり、その期間を正確に把握しておくことで、計画的な事業運営が可能になります。
特に、「審査にどれくらい時間がかかるのか」「どのような手順を踏む必要があるのか」を知らないまま出願を進めると、予定よりも登録が遅れてしまうこともあります。
本記事では、意匠権を取得するまでの流れや、審査期間の目安について詳しく解説します。
意匠権とは?
意匠権は、「意匠法」に基づいて保護される権利で、物品の形状、模様、色彩、またはこれらを組み合わせたデザインが対象です。主に製品の外観に関連する独自性を守るための権利であり、登録された意匠を他者が無断で製造、販売、輸出入することを禁止する効果があります。
意匠権の目的
意匠権の目的は、優れたデザインの創作を促進し、それを経済的価値として保護することです。これにより、デザインの模倣を防ぎ、デザイン開発への投資を支える仕組みとなっています。
意匠権で保護できるデザインの具体例
- プロダクトデザイン:家電、家具、スマートフォン、時計などの製品の形状や外観デザイン
- パッケージデザイン:食品や化粧品の容器、独特な形状の包装
- 装飾的な模様や柄:テキスタイルや壁紙など、見た目の美しさに特化したデザイン
登録例
- Dysonの掃除機:透明なシリンダー部分を強調した形状デザイン
- シャネルの香水瓶「No.5」:独特なシンプルかつ洗練されたボトルデザイン
意匠権を取得するメリット
- 模倣品の排除意匠権を取得することで、登録されたデザインを無断で模倣・使用する第三者を法的に排除することができます。
- デザインの価値を明確化デザインが知的財産として認められることで、製品のブランド価値が向上します。
- 独自性を競争優位として活用意匠権により市場での独自性が保たれるため、競合製品との差別化が可能です。
意匠権の保護期間
意匠権の保護期間は、出願日から25年間です(2020年の法改正後)。この期間中は、登録されたデザインが知財として保護されるため、安心して製品を市場に提供できます。ただし、保護期間は更新できないため、25年経過後は他者が自由に使用できるようになります。
意匠権取得までの流れ
意匠権を取得するには、特許庁への出願から登録まで、いくつかのステップを踏む必要があります。この章では、意匠権取得までの具体的な流れと、各ステップでの注意点を解説します。
1. デザインの決定と事前準備
意匠登録出願をするには、まずは以下のポイントをおさえ、保護したいデザインを明確にする必要があります。
- 対象デザインの選定:形状、模様、色彩の組み合わせなど、登録したいデザインを具体化する。
- 事前調査:特許庁が提供する「J-PlatPat」を活用して、類似の意匠が既に登録されていないか確認する。
- 類似意匠が見つかった場合、出願が拒絶される可能性が高いです。
- 出願書類の準備:正確で詳細な図面や写真、必要な説明文を準備します。
2. 特許庁への出願
デザインが決定したら、以下の書類等を作成し、特許庁に意匠登録の出願を行います。
- 意匠登録願書:デザインの概要や、意匠の対象となる物品名を記載。
- 図面や写真:意匠を正確に表現した図面や写真。特に図面は審査の対象となるため、正確性が求められます。
- その他の添付書類(必要に応じて):関連する資料や補足説明。
参考:https://www.inpit.go.jp/blob/archives/pdf/design.pdf
3. 審査開始
特許庁による審査が始まります。審査では、主に以下の点がチェックされます。審査項目の条件を充たしているかという点は権利化において非常に重要なポイントとなりますので、弁理士への相談を推奨します。
- 新規性の確認:出願された意匠が過去に公表されていないか(新しいデザインであるか)。
- 創作性の確認:その意匠が、単なる模倣や改良ではなく、独創的なものであるか。
- 対象物品の適格性:意匠法で保護される範囲に該当するか。
審査期間の目安
審査には通常、約8か月~10か月の時間がかかります。この期間は、出願内容の複雑さや審査の進捗状況によって異なる場合があります。
4. 登録料の支払いと意匠権の取得
審査に問題が無いと判断されると、特許庁から「登録査定通知」が届きます。その後、所定の登録料(後掲)を支払うことで意匠権を取得できます。
5. 登録後の管理
意匠権取得後も、以下の点に注意して権利を管理します:
- 模倣品の監視:市場における模倣品をチェックし、必要に応じて法的措置を講じる。
- 権利の活用:ライセンス契約を活用して収益化を図る場合もあります。
意匠権取得までのスケジュール例
以下は、出願から意匠権取得までの一般的なスケジュール例です:
- 出願準備(1~2か月)
- 出願から方式(書式の適法性)審査(約1~2週間)
- 実体審査期間(約8~10か月)
- 登録料支払いと意匠権取得(約1~2週間)
全体では、約9か月~1年を目安に準備を進めると良いでしょう。
意匠権取得までの費用
1. 出願料
- 意匠登録出願:16,000円
- 秘密意匠の請求:5,100円
- ※複数意匠一括出願の場合、一意匠につき上記の金額が適用されます。
2. 登録料
- 第1年から第3年まで:毎年8,500円
- 第4年から第25年まで:毎年16,900円
- ※第16年から第20年については、平成19年(2007年)4月1日以降の出願のみ適用されます。
- ※第21年から第25年については、令和2年(2020年)4月1日以降の出願のみ適用されます。
これらの費用は、手続きの内容や方法によって変動する可能性があります。詳細や最新の情報については、特許庁の公式ウェブサイトをご確認ください。
特許庁サイト:https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/hyou.html
まとめ
意匠権は、製品のデザインを保護するための重要な権利で、出願から取得までに通常8か月~10か月かかります。取得プロセスでは、事前調査や正確な書類作成が審査のスムーズな進行に役立ちます。また、特許庁の早期審査制度を活用すれば、審査期間を約2~3か月に短縮可能です。出願時には、J-PlatPatを活用して類似意匠を調べたり、弁理士に相談して専門的なアドバイスを受けるとよいでしょう。これらの対策を講じることで、登録成功率を高めるとともに、意匠権取得までの期間を効率的に短縮できます。デザインの模倣を防ぎ、事業を円滑に進めるためには早めの準備がポイントです。